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礼拝メッセージより
説教題：「誰かのため」 2002年3月10日
聖書：マタイによる福音書 25章14-30節
芝生
隣の芝生は青く見える。確かにその通り。人の持っているものは素敵に見えて、自分の持っているものはみすぼらしく見える。自分にないもの、自分が持っていないものがとてもすばらしく見えてしまう。それに一杯お金を稼ぐ人の話を聞くといいなあ、と思ってしまう。自分も有名になっていっぱいお金を稼げればいいな、なんて思う。いつも人と自分を比較して、他の人の方がすぐれているものを一杯持っているような気になっている。
タラントン
タラントンとは才能のこと。誰にも与えられている才能、能力。後にタレントと訳されるようになったそうだ。テレビタレントなど。
今日のたとえにあるようにそのタラントンを私たちはそれぞれに与えられている。それぞれ違った額を預けられているように、私たちはそれぞれに違った賜物を与えられている。タラントンは与えられたもの、贈り物、あるいは預かりものといってもいいかもしれない。才能があるとかないとかということが実際にあるが、そして才能のあるものがすぐれた人間であるように思うところがあるが、しかしそれは本当は神さまがたまたまその人にそれを預けたということなんだろう。人のことを羨むことが多いが。
そして神がどのようなものを預けているかということであるが、1タラントンとは6000デナリオン、1デナリオンが1日分の給料ということで、それを1万円とすると、１タラントンは6000万円ということになる。2タラントンは1億2千万円。5タラントンというと3億円。主人はそれを少しのものであるという。神からの賜物はそれほどの多さなのだろう。そしてそれでも神はまだ少しでしかない、というのだ。3億円に相当するものを少しのものという。私たちは神からどれほどの賜物を与えられていると思っているだろうか。神から私たちに与えられている賜物は実は私たちが考えているよりももっともっと多い、もっともっと価値のあるものなのかもしれない。数千万円、数億円に相当するほどのものを神は私たちに与えられているのだろう。
私たちは自分には何も出来ない、これもあれも出来ないと言う。教会でもそう言う言葉をよく聞く。周りの人を見るときは、あの人はあれも出来てこれも出来てといいなあ、なのに自分には何も出来ないという。本当にそうなんだろうか。本当は私たちは自分に与えられているものがよく分かっていないのかもしれないと思う。本当は3億円のものを預かっているのに、それに気づかずに自分には与えられていない、あの人にはあんなに与えられているのに、なんて文句ばかりいっているのかもしれない。
自分に何が与えられているか、自分に何ができるか、それをもう一度考えてみた方がいいのかもしれない。そして文句ばかりいうことが正しかったかどうかを考えてみた方がいいのかもしれない。
喜ぶ
5タラントンを預かったものが5タラントンを儲けたことを主人は一緒に喜んでくれ、という。2タラントンを預かったものが2タラントンを儲けた時にも喜んでくれという。しかし１タラントンを預かったものが、それを地の中に隠しておいたことに関しては、けしからんことだ、という。
ではこの主人は儲けたから一緒に喜んでくれと言ったので、儲けなかったから怒ったのだろうか。この話は天の国のたとえの話しであって、主人は神のこと。神は儲けない者に対して怒る方なのだろうか。
多分儲けないことに怒ったのではなく、それを土地の中に隠して置いて全然使わなかった事に対して、怒ったのではないかと思う。減らないように大事にしまっておいたということならばそんなに怒られる筋合いでも無いという気がする。減らさないことが大事なことならば、それも一つの方法だ。しかしここで主人が怒ったのはそれを預けたものを用いて何かをしようとしなかったことに怒ったのではないかと思う。預かったものを用いて、それでうまくいかずに損をしたとしても怒られはしなかったんではないかと思う。
失敗
祈り会で失敗の話しが出た。その中で、できるだけ失敗を少なくしようとすると、それだけ成功も減ってくるという話しがあった。失敗しないようにしないようにと縮こまっていくと、それまでできていたこともだんだんとできなくなるのではないかと思う。失敗は成功の母、なんて言葉もあるが、成功のためにはそれ相応の失敗がきっと必要なんだろうと思う。失敗をおそれていろんなことから手を引いていては、結局は成功からも遠ざかっていってしまうのだと思う。失敗することにばかり注目して駄目だ駄目だと思っていては成功もやってこなくなるように思う。失敗したら駄目だ駄目だと思うのではなく、次はどうすればいいか、次はこうやってみたらどうか、と考えていくことが大事なのだと思う。私たちは自分が失敗することに物怖じしたり、人が失敗することにとやかく言い過ぎるのではないかと、これは自分の失敗を弁解するためにいっているのもあるが、失敗したり間違ったりしないということが大事になり、だんだんと安全策をとっていってしまって前例のないことはしないとか、結局は何もしないことが一番失敗がないなんてことになってしまうのではないかと思う。それはここでいわれている１タラントンを土の中に埋めておくことと同じことになるのではないかと思う。
あるいはまた、私は年を取ったから、体が悪いからあれもこれもできない、と思う。もっと才能があれば、もっと若ければ、もっと暇があれば、なんてことも考える。でも結局そうやって与えられた賜物、預かっている賜物を用いようとしないとなると、土地の中に埋めておくことと同じなのではないかと思う。
喜ぶ
儲けたものに対しては私と一緒に喜んでくれ、と主人はいう。神さまは私たちが賜物をいかすことを、一緒に喜んでくれ、と言われているのではないか。
私たちが賜物を用いていかす、それは神を喜ばすことであり、私たち自身も喜ぶことなのだ。
賜物は、自分一人が握りしめていても何に意味もないもののようだ。神から与えられたどんなにすぐれた才能も、それを誰かのために用いるのでなければそれは意味がない。誰かのために用いるからこそ喜びとなるのだ。どんなに歌が上手くても、楽器をどんなにうまく演奏できても、ただ自分一人だけで歌っても演奏してそれほど嬉しくはないだろう。こんなに上手になったというのはあるだろうが、それを聞いてくれる相手がいるからこそ、そしてそれを喜んでくれるからこそ自分の嬉しさは何倍にもなるように思う。
私たちは神からいろんな賜物を与えられている。愛を与えられている、赦しを与えられている。しかしそれをただ自分に溜め込んでいくだけでは自分も周りも喜べない。与えられているものを分け与えていくこと、それはしかしその分自分の喜びを大きくしていくことだ。
タラントンを喜びと考えてもいいかもしれない。その喜びを大きくしていくことを神は一緒に喜んでもくれる。喜びを大きくするには自分から与えることが必要だ。愛を赦しを与えること、それが自分の喜びを大きくすることでもある。ただ受けることだけを考えていては喜びは大きくならないように思う。受けるよりも与える方が幸いである、と言われているように、与えることで喜びは増える。与えられてばかりというのではよどんでしまう。
死海には流れ込む河はあるが、流れ出る河はないそうだ。標高が低いので外に流れ出るところがない。ただ流れ込むばかり、でも水は蒸発するのであふれることはないらしい。けれども流れ込むばかりでは生き物はほとんど生きていけないそうだ。だから死海と呼ばれているみたいだ。
私たちも受けるばかりではよどんでしまって死の世界になってしまう。あれもこれもやってくれやってくればかりでは喜びは大きくならないで不満ばかりになる。自分が与えること、誰かのために自分に与えられている賜物をいかすこと、それが私たちの喜びを増やすことであり、神も喜ぶことなのだろう。
新しい会堂を作ろうとしている。会堂が新しくなったらきっと嬉しいだろう。けれども、私たちがなにもしないで、何も心配もしないで、いつの間にか新しい会堂が出来て、これがあなた達の新しい会堂です、なんて言われるのと、自分たちが献金して苦労して心配して新しい会堂を作るのとどちらが嬉しいだろうか。誰かがやってくれたものを与えられることと、自分が苦労して作るのとどちらが喜びとなるだろうか。誰かがもっと献金してくれたら、誰かがいろんな手配してくれたら、誰かが考えてくれたら、なんて思うけれども、そうやって誰かがやってくれたとしたら、楽にはなるだろうけれども、出来たときの喜びはきっと小さなものでしかなくなるだろう。
会堂を作るということになってから一番いやだった言葉が頑張ってください、と言葉だった。励ましのつもりで言われているんだろうけれども、そんなのは牧師がするものだ、私には関係がない、苦労するのはお前なんだと言われているような気がしていやだった。本当は一緒に考えて欲しい、一緒に苦労して欲しい、一緒に悩んだり一緒に心配して欲しい、そして出来上がったときには一緒に喜びたいのだ。
喜びがないとすれば、それは自分が与えることをしていないから、自分に与えられた預けられた賜物をいかして用いてないからなのだろうと思う。教会の人数が少ないとかお金が減ってきたとかいうことは二の次だ。教会には借金がある方がいい、とある引退牧師は言っていた。
誰かのために自分の物を与える、自分の持っているものをいかす、そのことでその誰かと一緒に喜ぶこと、そこでは神さまも一緒に喜んでくれていることだろう。神から与えられた愛と憐れみと赦しを、私たちも私たちの隣人に与えていこう。そしてそのことを喜んでいきたい。
