果汁100％

　ひところ、電話代が安くなるので契約を変更するためにFAXに印鑑を押して返送しろ、という電話がよくかかっていました。こちらが同意するともしないとも言ってないのに手続きの方法だけを伝えるという強引な勧誘でした。その電話の中で、「この電話の名義は･･･でいいですか」というようないくつかの質問をされましたが、答える度に「ありがとうございます」と言われました。あまりにうるさいので、「いちいちありがとうございますと言わないでくれ」と言ったことが何度かありました。それでもしばらくするとまた「ありがと」と言いかけて、あっと気が付いてやめた人もいました。
　「ありがとう」って日本語の中でも最も美しい言葉だと聞いたような記憶があります。しかし件の「ありがとうございます」は感謝ではなくて、ただの条件反射の言葉なのでしょう。それは全然美しくない、ただ耳障りな言葉でしかありませんでした。

　「神はこう言っている、聖書にはこう書いている」、いくら分かったような顔をしてそんなこと言っても、どれほど立派な理屈を語ったとしても、どれほど正しいことを語ったとしても、それが心から出た言葉でない、ただどこかで聞いたような実感の伴わない言葉だとしたら、その言葉は薄っぺらで誰の心にも響かない、ただの「騒がしいどら、やかましいシンバル」でしかないでしょう。

　心の底から迸る言葉、人生から滴り落ちる言葉、それはきっと濃厚な言葉です。そんな濃厚な言葉こそが人を支え力づけ慰めるのだと思います。